子育てコラム

子育て中のメンタルヘルス-うつ病の世界から脱出するヒントと家族やママ友がうつのときの対処法

2022年5月20日


うつ病。
子育て中の自分には関係ない。
誰か特別な人がかかるものだ。
そう思っていませんか?

厚生労働省厚生労働省 知ることからはじめよう、みんなのメンタルヘルス
こころの病気で病院に通院や入院をしている人は国内で約420万人。
これは日本人のおよそ30人に1人。

生涯を通じては5人に1人がこころの病気にかかるといわれています。


こころの病気は特別なものではなく、誰もがかかる可能性のある身近な病気なんです。


筆者も子育て中に抑うつ状態に…

実は、このコラムを書いている筆者自身も子育て中にうつ状態に悩まされた一人。

一番つらかったのは子どもが幼稚園~小学校低学年のころ。
今思えば、出産前後からあった抑うつ状態が悪化したということなのかもしれません。
特に当時は子どもへの接し方に悩み四六時中子どもの事を考えていました。

でも、夫婦仲が悪かったため、子どもの悩みもこのつらい状態も夫に伝ええることは出来きません。
かと言って、自分の悩みを友達に話すタイプでもないのですべてを一人で抱え込んでいました。

何でもない時に涙が出る。
夜眠ろうとしても「どうしてあんなことを言ったんだろう」「もっとこうすればよかった」など、自責の念と焦燥感に囚われて眠れない日々。

つねに頭痛と肩こりに悩まされる。
そのうち時間の感覚が失われていく。
体を起こすのも億劫になり、朝食のお皿を洗い終わるのにも夕方までかかったあげく、ぐったり疲れてしまうんです。

その後、たまたま知った「親業」のコミュニケーションメソッドのお陰で少しづつ柔軟な考え方が出来るようになり、親子関係も夫婦関係もよくなったことで徐々にうつ状態から脱却していきました。

もし、あの時自分の考え方を変えるものに出会っていなったら…
私は今も暗いトンネルの中にいたかもしれません。

ここでは、こころの病気、特にうつ病の理解を深めながら、うつ状態を理解するのに役立つ考え方と、身近な人がこころの病気になった時の対処法をご紹介していきます。

 

こころの病気を正しく理解する

こころの病気といっても種類は様々です。

心の病気

依存症
うつ病
強迫性障害
摂食障害
双極性障害(躁うつ病)
てんかん
統合失調症
認知症
パーソナリティー障害
パニック障害・不安障害
PTSD など

そして、これらに共通するのは「脳」です。

「足首を捻挫して歩けない」「肝臓を悪くして顔色が悪い」など、病気やケガなら周囲も不調が分かるので労わりやすいでしょう。

しかし、こころの病気は、感情や意欲を司る脳の働きに何らかの不調が生じて起こる病気のため、本人が苦しんでいても周囲には分かりにくいことがあります。

そのため、悪気無く無理をさせたり、何気なくいった言葉で症状を悪化させてしまうことがあるかもしれません。

そう考ええると、私たちみんながこころの病気を正しく理解し、日ごろからコミュニケーションを見直すことはとても大切です。

 

うつ病の理解を深める

うつ病とは

感情や意欲を司る脳の働きに何らかの不調が生じ、日常生活に支障が出るほどの強い気分の落ち込み、意欲の低下が続く病気です。

日本では、100人に約6人が生涯のうちにうつ病を経験するといわれており、女性の方が男性より1.6倍ほど多くなっています。

発症の原因は精神的、身体的ストレスが指摘されていますが、正確にはわかっていないのが現状のようです。

こんな症状はありませんか?

精神症状

  • 一日中気分が落ち込んでいる
  • 何をしても楽しめない
  • 疲れやすい
  • 物事をやるのがおっくうで早くできない
  • 人に会いたくない、人と一緒にいたくない
  • 寝てもさめても同じことを考えてしまう(心配ごとや悲観的なこと)

身体症状

  • 食欲がない
  • 夜寝つけない
  • 夜中に目が覚めてしまう
  • つねにイライラしている
  • 表情が乏しくなった
  • 食欲がない

こんな症状が2週間以上続く場合はうつ病の可能性があるといわれています。

ではここで、うつ病の人から見た世界についてみてみます。

 

うつ病の世界

うつ病の人の世界は例えるなら、
自分の小さな箱に入ってしまった状態

誰しも、実際に起こったことを多少オーバーに捉えるなどの認知のゆがみを持っています。

しかし、この箱の中に入ってしまうと、この認知のゆがみがさらに歪み、「ものの見方」「考え方」が否定的になっていきます。


▶以下はデビッド・D・バーンズが挙げた認知のゆがみの10パターンです。

認知のゆがみの10パターン

全か無かの思考
~すべき思考
心のフィルター
ふつう~一般化思考
マイナス化思考
結論の飛躍
拡大解釈、過小解釈
感情の理由づけ
レッテル貼り
個人化

こちらのコラムで認知のゆがみの10パターンの詳細をご紹介しています。それってモラハラかも!<後編>~気がついたら出来ること~

人の気持ちというのは常に一定ではなく、程度の差こそあれ気分の浮き沈みがあるのが普通で、気持ちが沈んでいる時は物事を悪い方に考えがちです。

言い変えると、わたし達は日々箱の中を出たり入ったりしながら生活しているわけです。

気持ちの切り替えの早い人は箱に入っている時間が短く、切りかえの苦手な人は箱の中にいる時間が長い。
そして、うつ病の人は箱から出られなくなっている状態です。

この認知のゆがみがひどくなると…

例えば、ただ集まって話している人をみて

「わたしの悪口を言っているんだ」
「あの人はこの前もそうだった」
「わたしなんていない方がいいんだ」

ただ絵を描いている子どもをみて

「絵ばかり描いて男らしくない」
「このままじゃいじめられちゃう…」
「とにかくすぐにやめさせなくちゃ」

など…
過去や未来の気分や感情で作られた「思い込み」や「レッテル」を、まるで事実かのように認識し、ネガティブな思考や感情をさらに強めてしまいます。

厄介なことに、こころが健康なときであれば自力で抜け出せたはずの箱が、うつ病になると自力で抜け出すのがとても難しくなります。

そしてさらに厄介なのが、

うつ病を患った本人だけではなく、そこに関わる周りの人達をも箱に閉じ込めてしまう危険性があるということです。

うつ病はうつる!ういう人もいます。
もちろん、感染症のように本当にうつるわけではありません。

ただ、うつ病の人と密接な関係(家族、夫婦間、恋人など)にある場合、共感しすぎてうつ病の人と同一の症状があらわれる可能性は高いということです。
そこから本格的にうつ病を発症する人も少なくありません。

うつっぽいな…と思ったら、

自分をこころの病気から守るのはもちろん、あなたに関わる大切な人たちを守るためにも、箱から自力で抜けられなくなる前に、自分の箱から脱出することを試みてほしいものです。

箱から自力で脱出することができるんだということが分かっていれば、例えいつもより長く箱に入ってしまったときでも、うつ病になるまえに脱出できますからね。

では、箱から脱出するためにはどうしたらいいのでしょうか?


認知のゆがみから抜け出す方法



もしあなたが今箱に入ってしまっているのなら、まずは「今」は大きな決断はしないでなるべくやり過ごすことです。

そして、気分が少し良くなって箱から抜け出せそうな時に

今わたしが感じている不安や恐れは現実ではないんだ!!

ということを自分に言い聞かせてください。

何度でも何度でも言い聞かせてください。


物事の見方を変える

次に、認知のゆがみで生じた「ものの見方」「考え方」を補正していきます。
そのためには、「事実」を見るようにしていきます。

ここで間違いやすいのが「事実」ではなく「真実」をみてしまうこと。

一見にている両者ですが、似て非なるもの。
みてほしいのは「事実」です。

では両者の違いはというと

真実

人それぞれの主観に基づいたもの。
真実は人の数だけあります。

事実

誰がみてもそうであることを客観的に表したもの。
事実は1つしかありません。

うつ病の人は自分の中の「真実」をまるで「事実」かのように思い込んでいます。
だからこそ、「真実」ではなく「事実」をみるように心がけてほしいのです。


事実をみる方法

事実とは、外部から観察可能な反応、目の前にあらわれているものごとや状態のこと。
その見方はいたってシンプルです。

事実をみる方法

「目に見えるもの」
「耳に聞こえるもの」

上記をみるように心がけること。
ただそれだけです。

×わたしの悪口を言っているんだわ
○集まって話している

「集まって話している」という事実をみて、「わたしの悪口を言っている」とあなたが感じているわけです。

×絵ばかり描いて男らしくない
○絵を描いている

「絵を描いている」という事実をみて、「男らしくない」とあなたが感じているわけです。

また、上記はそう感じてはいけないということでは決してありません!

「事実」と感じていることは別なんだということを分かってほしいのです。

そして、事実と感じ方の違いが見えるようになってきたら、次は自分のことをみつめていけるといいでしょう。

自分の箱に入っているときというのは「どうしてあの人は○○なんだ」「あのときこうしていれば」など物事を否定的に見がちです。

そこには、自分がどうしたいのかがほとんどない状態です。

ぜひ、自分をみつめることで、自分はなにがしたいのか、自分は何が伝えたいのか、そんなことが見えてくると、「ものの見方」や「考え方」はさらに良い変化が現れるはずです。


相手を責めずに自分を見つめる方法

ここでは、相手を責めずに自分を見つめる方法としてアイメッセージという手法の作り方をご紹介します。

アイメッセージは、相手を責めずに、自分のどの欲求が満たされていないのかを表現するメッセージですが、このメッセージを作ってみることで、自分のやりたいこと・伝えたいことを知る手掛かりにもなるはずです。

アイメッセージは以下の三つの構成で作られます。

アイメッセージを構成する三つ

【事実】気になっている事実は?

【影響】自分にどんな影響があるの?

【感情】その影響によって何を感じたの?

例えば、集まって話しているのをみて不安を感じた時

【事実】集まって話している

(集まって話していると私にはどんな影響があるのかな?何が困るのかな?不安なのかな?)

【影響】今は誰とも話したくないから、きっと話しかけられても上手く話せない…
でも、そうしたら愛想のない人って思われるかも…

(上手く話せなくて愛想がないと思われたらわたしはどんな感情をもつかな?)

【感情】心配だな。

これをそのままアイメッセージにしてみると

ママ達が集まって話してるけど…
今は誰とも話したくない気分だから、話しかけられても上手く話せないな…
でも、そうしたら愛想のない人って思われるんじゃないかと心配だな。

こんな風になるかもしれません。

こうして作ってみると、「今は話したくないな…」「上手く話せるか心配だな」という自分や、「今はひとりでゆっくりしたい」「ママ達とは仲良くしたい」などの本当に願っていることなんかも見えてくるかもしれません。

もちろん、上記はアイメッセージのほんの一例です。

あなたが作るアイメッセージには、あなたの本当の影響や気持ちをもりこんでいきましょう。

また、自分を知り、自分と仲良くなる方法はアイメッセージだけではありません。
自分に合った方法を探してみるのもいいでしょう。


家族やママ友がうつなったら…

もしも家族や仲の良いママ友がうつ病になったら…
力になってあげたい!
元気づけてあげたい!

多くの人がそう思うでしょう。

でも、こんなことを聞いたことはありませんか?

うつ病の人をはげましてはいけない?

これは本当です。

良かれと思ってかけた励ましの言葉も、箱に入って出てこられない人にしてみると「元気ではない自分はダメだ」と受け取る可能性が大きく逆効果になってしまいます。

そこで、「ああ、はげまさないようにしよう」と思う人もいるでしょうが、実は、良かれと思ってかけた言葉が逆効果だという場合はまだまだあるのです。

 

症状を悪化させかねない12の対応

以下は、アメリカの臨床心理学者トマス・ゴードン博士が創始した「親業-Parent Effectiveness Training」より、症状を悪化させかねない12の対応です。

もしもあなたの大切な人が、「何もやる気がしない」「もうわたしダメだ…」そうな風に言った場合の事例でご紹介します。

症状を悪化させかねない12の対応

1)命令
「買い物にでも行ってきなよー」
「子どもは預かるとにかく休んで」

2)脅迫
「そういうの子どもも感じて不安定になるよ」

3)説教
「考えれば考えるほど余計つらくなるよ。今は考えないのが一番だよ」

4)提案
「他の人を頼ればいいのに」
「気分転換した方がいいよ」

5)講義
「こういう経験があるからこそ人の痛みが分かるようになるんだよね」

6)非難
「被害者ぶったってなにも変わらないでしょ」

7)同意・賞賛
「そういうとき時あるよね」
「分かるよ」「真面目だからね」

8)侮辱
「ちょっと甘えてるんじゃないのかな」

9)分析
「考えすぎだよ、なんでも自分でやろうとしてるからだよ」

10)同情・激励
「大丈夫、大丈夫!行ってみたら気が晴れるよ。」

11)尋問・質問
「旦那さんに相談したの?」
「この先どうするの?」

12)ごまかし
「休める環境があっていいよね」

12の対応についてもっと詳しく知りたい場合はこちらもどうぞ。
お決まりの12の型を知っていますか?

いかがでしょうか?
普段何気なく言っている言葉が多いのではないでしょうか。

では、なぜ上記の12の対応ではうつ病の人の力になることが出来ないのでしょうか?

対話はキャッチボールに例えられます。
例えば上記の12の対応をキャッチボールで表現するなら

「やる気でないんだよね」という「青い色のボール」を投げたところ

「青い色のボール」ではなく、青以外の色んなボールが返ってきた状態です。

人が箱に入ってしまっているときは、アドバイスや説教などのあなたの意見(色んな色のボール)がほしいわけではありません。

ただただ、あなたの投げたボールは「この青いボールだね」と分かってほしいのです。

例えばこんな風に

「そうか、やる気がでないんだね」
「つかれちゃったんだね」

その言葉の裏にあるのは

あなたの投げたボールはこの青いボールかな?
と聞き手の理解を確かめる気持ち。

あなたが青いボールを投げたことちゃんと分かっているよ。
と相手の気持ちを理解したことを伝える気持ちがあるといいでしょう。

これが共感して聞くということです。

たかが共感、されど共感です!
うつ病やその他気持ちが落ち込んで箱に入ってしまった人にとって、こうして共感して聞いてもらえることは、、自分で立ち直るための大きな大きな支えになります。

もし、あなたの大切な人が元気がないな…と思ったら、ぜひこのことを思い出してみてください。

こころの病気は回復しうる病気

こころの病気にかかるとかかったとしても、多くの場合は回復し社会の中で安定した生活をおくることができます。
ただし、早く治そうと焦って無理をしてしまうと回復が遅れる場合もあります。
治療は「焦らずじっくり」という姿勢で臨むことが回復への近道です。

うつ病かな…と思ったら、安易な自己判断をせず、早めに総合病院の精神科や心療内科、精神科のクリニックなどに相談してください。
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  • この記事を書いた人

生駒 章子

親の学校プロジェクトの代表。元ガミガミママで今は親教育の専門家。
自身の原体験から、子育て支援ではなく「親支援」にこだわって活動中。趣味は読書(マンガ)

ファミリーワークス合同会社の代表。
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